2026/6/29 21:21
今日の水の言葉

これが水です(This is water)
米国の作家・思想家であるデヴィッド・フォスター・ウォレスが、2005年の大学の卒業式で行ったスピーチの主題となり、後に現代思想として広く知られるようになった言葉です。
彼は思想の導入として、次のような寓話を提示しました。二匹の若い魚が泳いでいると、すれ違った年寄りの魚に「おはよう、今日の水はどうだい?」と尋ねられます。若い魚たちはそのまましばらく泳いだ後、不思議そうに顔を見合わせてこう問いかけます。「水っていったい何なんだ?」
水の中で生まれ育ち、常に水に包まれている魚にとって、水はあまりにも当たり前すぎる存在です。そのため、対象を相対化して観察する機会を持たず、自らを取り囲む絶対的な環境そのものを客観的に認識することができないという生態学的な事実を示しています。
ウォレスはこの流体環境における生物の認知の限界を、人間社会の構造に当てはめました。私たち人間にとっても、日常生活の中で最も重要であり、常に自分を取り囲んでいる「現実」や「社会の前提」は、あまりにも身近すぎるがゆえに、自らの意思で意識的に注意を向けなければ完全に見失ってしまうと指摘しています。
人間は放っておくと、世界を自分中心の視点だけで解釈する「無意識のデフォルト設定」に陥る性質を持っています。自らの命を支え、世界を構成している最も根源的な環境の「見えなさ」を水の物理的・空間的な特性になぞらえ、私たちが日々どのような思考の枠組みの中で生きているのかを批判的に捉え直すことを促した、現代における非常に重要な哲学的メッセージです。
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