MLSSとMLVSSの定義と水処理における役割の違いについて

活性汚泥法を用いた水処理プロセスにおいて、処理状況を把握し、適切な運転管理を行うためには、様々な水質指標が用いられます。

その中でも、曝気槽内の状態を把握する上で特に重要な指標がMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)MLVSS(Mixed Liquor Volatile Suspended Solids)です。

これらは混合液中の固形物量を示す指標ですが、その意味するところは異なります。本記事では、MLSSとMLVSSの定義、測定方法、そして水処理管理におけるそれぞれの役割と違いについて解説します。

MLSSは「Mixed Liquor Suspended Solids」の略称で、日本語では「混合液浮遊物質」と訳されます。

これは、活性汚泥混合液(曝気槽内の水と汚泥が混ざったもの)に含まれる浮遊物質の総濃度を指します。単位は通常 mg/L または ppm で表されます。

MLSSの測定は、以下の手順で行われます。

  1. 混合液を一定量採取し、ガラス繊維ろ紙などを用いてろ過します。
  2. ろ紙上に捕捉された固形物を、ろ紙ごと105~110℃で乾燥させます。
  3. 乾燥後、デシケーター内で放冷し、精密に秤量します。
  4. ろ過前のろ紙重量との差から、混合液中の浮遊物質濃度(MLSS)を算出します。

MLSSは、活性汚泥を構成する微生物(有機物)だけでなく、流入水由来の無機物や、分解されにくい有機固形物など、混合液中に浮遊する全ての固形物の合計量を示しています。

そのため、曝気槽内の全体的な汚泥濃度を把握するための基本的な指標として用いられます。

MLVSSは「Mixed Liquor Volatile Suspended Solids」の略称で、日本語では「混合液揮発性浮遊物質」と訳されます。

これは、MLSSのうち、強熱(高温で燃焼させること)によって揮発する、すなわち有機物量の濃度を示す指標です。単位はMLSSと同様に mg/L または ppm で表されます。

MLVSSの測定は、MLSS測定の後、以下の手順で行われます。

  1. MLSS測定で使用した、固形物が付着した状態のろ紙を、電気炉などを用いて通常600℃±25℃で強熱します。
  2. 強熱により有機物が燃焼・揮発します。
  3. 強熱後、デシケーター内で放冷し、精密に秤量します。
  4. MLSS測定後の重量との差から、揮発した有機物量(MLVSS)を算出します。

MLVSSは、強熱によって揮発する物質、すなわち活性汚泥中の有機物の量を示します。

活性汚泥中の有機物の大部分は、水処理の主役である微生物(細菌や原生動物など)の菌体です。

そのため、MLVSSは曝気槽内に存在するおおよその微生物量を把握するための指標として用いられます。

MLSSとMLVSSの主な違いをまとめると以下のようになります。

項目MLSS (混合液浮遊物質)MLVSS (混合液揮発性浮遊物質)
測定対象混合液中の浮遊物質 全体混合液中の 有機性 浮遊物質(主に微生物)
測定工程ろ過 → 乾燥 → 秤量ろ過 → 乾燥 → 秤量 → 強熱 → 秤量
示すもの全体の汚泥濃度微生物量のおおよその指標
構成要素微生物、無機物、難分解性有機物など主に微生物菌体

MLVSSをMLSSで割った値(MLVSS/MLSS比)は、通称「V比」と呼ばれ、活性汚泥中の有機物の割合を示す指標となります。一般的に、良好な活性汚泥のV比は0.7~0.85程度とされています。

  • V比が高い場合: 活性汚泥中の微生物(有機物)の割合が高いことを示唆します。流入水に有機物が多い場合や、汚泥の活性が高い状態で見られることがあります。
  • V比が低い場合: 活性汚泥中の無機物の割合が高い、あるいは活性の低い汚泥(老朽化した汚泥)が多く含まれている可能性を示唆します。土砂などの無機物の流入が多い場合や、汚泥の滞留時間が長すぎる(過曝気)場合などに見られます。

V比を定期的に測定・監視することで、汚泥の性状変化や流入水の変動、処理状態の変化を早期に捉えることができます。

MLSSとMLVSSは、活性汚泥プロセスの運転管理において、以下のように活用されます。

  • 汚泥濃度管理: MLSSは曝気槽内の汚泥濃度を直接示すため、汚泥返送率や余剰汚泥引き抜き量の調整における基本的な指標となります。目標とするMLSS濃度を維持することで、安定した処理能力を確保します。
  • 微生物量の把握: MLVSSは微生物量のおおよその指標となるため、処理能力の評価や、後述するF/M比の計算に用いられます。
  • F/M比(汚濁負荷微生物量比)の管理: F/M比は、流入する有機物量(BOD量など)を曝気槽内の微生物量(通常MLSSまたはMLVSSで代用)で割った値で、微生物に対する負荷の大きさを示す重要な管理指標です。適切なF/M比を維持するために、MLSSやMLVSSの測定値が利用されます。一般的に、F/M比の計算には、より微生物量に近いとされるMLVSSを用いる方が精度が高いと考えられますが、測定の手間からMLSSで代用されることも多くあります。
  • 汚泥性状の評価: V比の変化を監視することで、汚泥の活性度や無機物の混入状況などを推定し、バルキング(汚泥膨化)などの異常の兆候を捉える手がかりとします。

MLSSとMLVSSは、どちらも活性汚泥法における重要な管理指標ですが、測定対象と示すものが異なります。

MLSSは混合液中の浮遊物質全体の濃度、MLVSSはそのうちの有機物(主に微生物)の濃度を示します。

これらの値を正確に測定し、その意味を理解した上でV比なども含めて総合的に評価することが、水処理プロセスを安定的に運転管理するために不可欠です。

日々の測定データを蓄積し、変化の傾向を把握することで、より効率的で安定した水処理の実現につながります。

水処理プロセスの分析や改善、トラブルシューティングには、専門的な知識と経験が求められます。

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