【水処理の基礎知識】工場設備担当者が押さえておきたい専門用語3選 (2)

工場の水処理設備を担当される皆様、日々の業務お疲れ様です。前回は、水処理の基本となる「SS(浮遊物質)」「BOD(生物化学的酸素要求量)」「pH(水素イオン濃度指数)」という3つの重要な用語について解説しました。これらの指標は、排水の基本的な性状を理解する上で不可欠です。

連載第2弾となる今回は、さらに一歩進んで、排水の有機汚濁を測るもう一つの重要な指標と、生物処理の核心、そしてその生物処理を支えるために欠かせない要素について解説します。これらの用語を理解することで、より具体的な水処理プロセスや、日々の運転管理のポイントが見えてくるはずです。

COD (Chemical Oxygen Demand) とは? – BODとの違いと測定の意義

まずご紹介するのはCODです。「Chemical Oxygen Demand」の略で、日本語では「化学的酸素要求量」と訳されます。前回解説したBODと同様に、水中の有機物による汚濁の程度を示す指標の一つですが、測定原理が異なります。

CODは、水中の被酸化性物質(主に有機物ですが、一部の無機物も含む)を、過マンガン酸カリウムや重クロム酸カリウムといった強力な酸化剤を用いて化学的に酸化し、その際に消費される酸化剤の量から相当する酸素量を求めたものです。(日本では過マンガン酸カリウムが一般的です。)

BODとの違いは?

BODが微生物の働きによって分解される有機物の量を測るのに対し、CODは化学的な力で強制的に酸化される物質の量を測ります。主な違いは以下の通りです。

  • 測定対象:
    • BOD: 微生物によって分解されやすい有機物。
    • COD: 微生物では分解しにくい有機物や、亜硝酸塩、硫化物などの還元性無機物質も一部測定対象となる。
  • 測定時間:
    • BOD: 通常5日間(標準的な測定法)。
    • COD: 通常2~3時間程度。
  • 値の傾向: 一般的に、同じ排水であれば、CODの方がBODよりも広範囲の物質を酸化するため、BOD値よりも高い値を示すことが多いです。しかし、排水の組成によってはBODの方が高くなる場合もあります(例えば、特定の微生物にとって分解しやすいが、標準的なCOD酸化剤では酸化されにくい有機物が主な場合など)。

COD測定の意義

測定時間が短いことから、CODは水質変化を迅速に把握したい場合や、日々の運転管理指標として用いられることがあります。また、湖沼や海域など、BOD測定に適さない(微生物の活動が期待できない、あるいは塩分濃度が高いなど)水域の有機汚濁指標としても利用されます。工場排水においては、BODとCODの両方を測定し、その比率(BOD/COD比)などから排水の性状(微生物による分解のしやすさなど)を把握することが重要です。

活性汚泥とは? – 排水を浄化する微生物の集合体

次にご紹介するのは「活性汚泥(かっせいおでい)」です。これは、排水中の有機物を分解・除去するために、排水処理施設内で増殖してきた、多種多様な微生物(細菌類、原生動物、微小後生動物など)がフロック(綿状の塊)を形成した泥状の物質のことを指します。

この活性汚泥を利用して排水を浄化する方法を「活性汚泥法」と呼び、下水処理場や多くの工場の排水処理施設で採用されている、最も代表的な生物学的排水処理方法の一つです。

活性汚泥の働き

活性汚泥中の微生物は、排水中に含まれる有機物を栄養源として取り込み、自身の増殖や生命活動のエネルギーとして利用します。この過程で有機物が分解され、水が浄化されます。具体的には、以下のような働きをします。

  • 有機物の分解: 主に細菌類が、排水中の炭水化物、タンパク質、脂質などを分解し、二酸化炭素や水などに変えます。
  • フロック形成: 微生物自身が産生する粘着性の物質などにより、微生物同士や懸濁物質が凝集し、沈降しやすいフロックを形成します。これにより、処理水と汚泥を分離しやすくなります。
  • その他物質の除去(一部): 特定の微生物は、アンモニア態窒素を硝化したり、リンを過剰に取り込んだりする能力を持ち、窒素やりんの除去にも寄与します。

活性汚泥は生き物であるため、その能力を最大限に発揮させ、安定した処理水質を得るためには、酸素供給(DO管理)、栄養バランス(BOD、窒素、リンの比率)、pH、水温などを適切に管理し、良好な状態を維持することが非常に重要です。

DO (Dissolved Oxygen) とは? – 生物処理に不可欠な水中の酸素

最後に解説するのはDOです。「Dissolved Oxygen」の略で、日本語では「溶存酸素」と訳されます。文字通り、水中に溶け込んでいる酸素の量を指し、通常、mg/L(ミリグラム毎リットル)やppm(ピーピーエム)という単位で表されます。

DOが生物処理において重要な理由

特に活性汚泥法のような好気性生物処理(酸素を必要とする微生物の働きを利用する処理)において、DOは極めて重要な管理項目です。活性汚泥中の微生物は、有機物を分解する際に酸素を消費して呼吸します。この酸素が十分に供給されないと、微生物の活動が低下し、排水の浄化能力が著しく悪化します。

  • DO不足の影響:
    • 処理効率の低下: 有機物の分解速度が遅くなり、BODやCODの除去率が低下します。
    • 嫌気化の進行: 曝気槽内が酸欠状態になると、嫌気性菌が優占し、硫化水素などの悪臭物質が発生することがあります。
    • 汚泥の沈降性悪化: 糸状菌が異常繁殖(バルキング)しやすくなり、最終沈殿池で汚泥が沈みにくくなることがあります。
  • DO過剰の影響:
    • 動力コストの増大: 曝気(空気を送り込むこと)には多くのエネルギーを消費するため、必要以上の曝気は運転コストの無駄遣いになります。
    • 汚泥フロックの解体: 過度な曝気は、活性汚泥のフロックを細かく砕いてしまい、沈降性を悪化させる可能性があります。

適切なDO濃度(一般的に活性汚泥槽内で1~3mg/L程度、処理対象や状況により異なる)を維持するために、曝気装置(ブロワーや散気管など)の運転調整を適切に行うことが、安定した排水処理の鍵となります。DO計を用いて連続的に監視し、自動制御する場合もあります。

今回は、有機汚濁指標である「COD」、生物処理の主役である「活性汚泥」、そしてその活性汚泥を支える「DO」について解説しました。これらの用語は、特に生物処理を行う排水処理施設において、日常的に使われる重要なものばかりです。これらの関係性を理解することで、排水処理の仕組みがより明確になるでしょう。

水処理に関するお悩みや疑問点、あるいは既存の処理方法の改善をご検討の際は、まずは信頼できる専門業者にご相談いただくことをお勧めします。

専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

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