排水処理水の植栽散水利用:水不足対策としての効果と技術的留意点

連日の猛暑や降水量の減少は、多くの工場にとって安定的な水資源の確保という課題を突きつけています。特に、敷地内の緑化維持に不可欠な植栽への散水は、貴重な上水を消費する悩みの種の一つではないでしょうか。

このような状況下で、企業のサステナビリティやSDGsへの貢献という観点からも注目されているのが、「排水処理水」の有効活用です。適切に処理された排水を植栽散水に利用することは、水不足対策と環境貢献を両立させる有効な手段となり得ます。

本稿では、排水処理水を植栽への散水に利用する際の効果と、安全な運用に不可欠な技術的留意点について解説します。

排水処理水を植栽散水に利用するメリット

排水処理水の再利用は、単なるコスト削減に留まらない、多面的なメリットをもたらします。

1. 水資源の有効活用とコスト削減 最大のメリットは、上水使用量の削減による水道料金のコストダウンです。特に、広大な緑地を持つ工場ではその効果は顕著に現れます。また、渇水期における事業リスクの低減にも繋がり、安定した事業継続に貢献します。

2. 環境負荷の低減と企業価値向上 限りある水資源を工場内で循環利用することは、環境負荷を低減する具体的な取り組みです。これは、ISO14001の活動や、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」や目標12「つくる責任 つかう責任」への貢献にも直結し、企業の環境に対する姿勢を社内外に示すことで、企業価値の向上にも繋がります。

3. 栄養分の供給可能性 排水の種類や処理方法にもよりますが、処理水には植物の生育に有益な窒素やリンといった栄養塩類が微量に含まれている場合があります。これらが天然の液体肥料として機能し、植栽の健全な成長を助ける可能性も期待できます。

散水前に確認すべき水質の重要指標

排水処理水を安全に利用するためには、その水質が植栽に適したものであるかを確認することが絶対条件です。特に以下の項目については、事前の水質分析が不可欠です。

1. pH(水素イオン指数) 多くの植物は、弱酸性から中性の土壌(pH 6.0~7.0)を好みます。処理水のpHがアルカリ性や強酸性に大きく偏っている場合、土壌のpHバランスが崩れ、根が養分を吸収できなくなる「養分吸収障害」を引き起こす可能性があります。

2. EC(電気伝導度) / 塩類濃度 ECは水中に含まれる塩類濃度の指標です。ECが高い水(塩類を多く含む水)を長期間散水し続けると、土壌中に塩類が蓄積します。これにより土壌の浸透圧が高まり、根が水分を吸収できなくなる「塩害」が発生し、最悪の場合、植栽が枯死に至ります。

3. BOD / COD(生物化学的酸素要求量 / 化学的酸素要求量) これらは水中の有機物量の指標です。有機物が多く残存した処理水を散水すると、土壌中の微生物が有機物を分解する際に酸素を大量に消費し、土壌が酸欠状態になります。結果として、根腐れや悪臭の原因となる可能性があります。

4. SS(浮遊物質量) SS(水に溶けない懸濁物質)が多いと、土壌の表面を覆ってしまい、水や空気の通り道を塞ぐ「土壌の目詰まり」を引き起こします。また、葉に付着することで光合成を阻害する可能性も考慮すべきです。

5. 残留塩素 殺菌目的に塩素処理を行っている場合、高濃度の残留塩素は植物の細胞にダメージを与え、生育を阻害する原因となります。散水利用する際は、脱塩素処理を行うか、濃度が十分に低いことを確認する必要があります。

植栽散水における具体的な注意点

適切な水質であることを確認した上で、実際の運用においてもいくつかの注意点があります。

1. 定期的な水質分析の実施 工場の稼働状況や原水(流入水)の性質によって、排水処理水の水質は変動する可能性があります。安全性を担保するため、定期的な水質分析を行い、水質が基準内に維持されていることを継続的に監視することが重要です。

2. 土壌への影響モニタリング 長期的な散水が土壌に与える影響(特に塩類集積)を評価するため、定期的に土壌分析を行うことを推奨します。これにより、問題が顕在化する前に対策を講じることが可能になります。

3. 散水方法の工夫 散水は、水の蒸発が少なく、植物への負担も小さい朝夕の涼しい時間帯に行うのが効果的です。また、葉に直接かけるのではなく、植物の根元に優しく散水することで、水の蒸発を防ぎ、病害のリスクを低減できます。

まとめ


排水処理水の植栽散水への利用は、水不足という社会課題に対応し、企業の環境貢献とコスト削減を同時に実現する非常に有効なアプローチです。

しかし、その実施には、pHや塩類濃度といった専門的な水質管理と、長期的な視点での土壌への影響評価が不可欠です。安易な判断での利用は、貴重な緑地を損なうリスクも伴います。処理水の再利用を検討される際は、まず現在の排水処理状況を正確に把握し、その水質が再利用に適しているかを専門的な知見に基づいて評価することが成功の鍵となります。

もし、自社の排水処理水の再利用について検討したい、または現在の水処理方法が最適かどうかの判断に迷われている場合は、水処理の専門業者に相談することをお勧めします。

専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

water-admin