水処理装置の定期メンテナンス後の運転再開における注意点

水処理装置の安定稼働には、定期的なメンテナンスが不可欠です。しかし、メンテナンス後の運転再開時にトラブルが発生しやすいことも事実です。特に、メーカーによる水での試運転だけでは見えてこない、実液を通した際に起こりうる問題点について、本記事では詳しく解説します。

はじめに:メンテナンス後の試運転の重要性

定期メンテナンスでは、消耗品の交換や各部の洗浄、設定の確認などが行われます。多くのメーカーは、これらの作業後に、水道水や雑用水による試運転を行い、装置が正常に動作することを確認して作業を完了とします。

しかし、これはあくまで装置の機械的な動作確認に過ぎません。実際に処理対象となる実際の廃液や用水≒実液を流した際に、予期せぬトラブルが発生することが少なくありません。安定した生産活動を維持するためには、実液での試運転における注意点を理解し、慎重に立ち上げを行うことが極めて重要です.

水試運転と実液試運転の違い

水試運転と実液試運転では、確認すべきポイントが大きく異なります。

  • 水試運転: 主にポンプの正常な運転、流量や圧力の確認、水漏れの有無など、装置の物理的な動作を確認する段階です。
  • 実液試運転: 物理的な動作に加え、処理水質が要求仕様を満たしているか、薬品注入量が適正か、センサー類が正常に機能しているかなど、化学的・プロセス的な観点からの確認が必要となります。原水に含まれる成分や粘度、温度などが水とは異なるため、水試運転では問題なくとも、実液ではトラブルが発生する可能性があります。

実液試運転でよくあるトラブルとその対策

ここでは、定期メンテナンス後の実液試運転で特に発生しやすいトラブルと、その対策について解説します。

1. 処理水質の悪化

最も多くみられるトラブルの一つが、処理水質の悪化です。

  • 原因:
    • RO膜の性能低下: 薬品洗浄を行った場合、洗浄剤が十分にすすがれていないと、膜本来の性能が発揮されません。また、洗浄時の圧力や薬品濃度が不適切だった場合、膜にダメージを与えてしまうこともあります。
    • イオン交換樹脂の劣化・汚染: イオン交換樹脂の再生が不十分であったり、メンテナンス中に汚染されたりすると、処理水中のイオンリークが発生します。
    • ろ過材の偏り: ろ過装置のろ材交換や逆洗後、ろ層に偏りが生じていると、原水が十分にろ過されずに流出(リーク)してしまいます。
  • 対策:
    • 運転再開後は、まずサンプリングを行い、水質分析を徹底してください。特に、RO膜透過水やイオン交換樹脂処理水の電気伝導率(導電率)、ろ過水の濁度などを継続的に監視することが重要です。
    • 水質が安定するまでは、生産ラインへの供給を止め、排水するか原水槽へ戻すなどの措置を検討しましょう。

2. 圧力・流量の異常

メンテナンス前は問題なかったにもかかわらず、圧力や流量が不安定になることがあります。

  • 原因:
    • 配管内のエア噛み: メンテナンスで配管を分解・組立した際に、内部に空気が残留していると、ポンプの能力が低下したり、流量が不安定になったりします。
    • フィルター・ストレーナーの目詰まり: メンテナンス中に混入した異物や、運転再開時のスケール剥離などが原因で、フィルターやストレーナーが早期に目詰まりを起こすことがあります。
    • バルブの開閉間違い・開度不足: 手動バルブの開け忘れや、自動バルブの開度設定が不適切な場合、正常な圧力・流量が得られません。
  • 対策:
    • 運転開始前に、必ず配管系統のエア抜きを行ってください。
    • 各所に設置されている圧力計や流量計の指示値を注意深く監視し、異常があれば速やかに原因を調査します。
    • メンテナンス範囲のバルブが、運転状態として正しい開閉状態になっているか、図面と照らし合わせて再確認しましょう。

3. センサー類の誤作動

水質計や圧力センサーなどが、正しい値を示さないケースも見受けられます。

  • 原因:
    • センサーの汚損: メンテナンス作業中にセンサー検出部が汚れたり、油分が付着したりすることで、正確な測定ができなくなります。
    • 校正のずれ: 薬品洗浄などを行った場合、センサーの校正がずれてしまうことがあります。
    • 断線・接続不良: センサーケーブルの断線や、コネクタの接続不良も原因となります。
  • 対策:
    • 運転再開前に、センサー類の洗浄と校正を必ず実施してください。
    • 可能であれば、ポータブルの測定器などを用いて、設置されているセンサーの指示値と比較・検証することも有効です。

まとめ:安定稼働に向けた慎重な立ち上げを

水処理装置の定期メンテナンスは、装置の寿命を延ばし、安定した水質を維持するために不可欠です。しかし、メンテナンス後の運転再開には、水試運転だけでは見抜けない多くのリスクが潜んでいます。

実液での試運転では、本記事で解説したような「水質の悪化」「圧力・流量の異常」「センサー類の誤作動」といったトラブルが発生しやすいため、慎重な監視と対応が求められます。

もし、メンテナンス後の立ち上げで問題が発生した場合や、自社での対応に不安がある場合は、専門の業者に相談することをお勧めします。

まずは、お付き合いのある水処理専門業者に相談し、自社の状況に合った対策を講じることをお勧めします。


専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

water-admin