【技術解説】水処理業務における関連法規の全体像と実務的ポイント
工場の安定稼働と企業の持続的発展において、水処理技術は不可欠な基幹技術です。しかし、水処理は単に水を綺麗にする技術的な側面だけでなく、厳格な法的要求事項を遵守するという側面も持ち合わせています。本記事では、水処理業務に深く関わる主要な法律について、その概要と実務上のポイントを解説します。
なぜ水処理に法律の知識が不可欠なのか
水処理、特に工場排水の処理は、公共用水域(河川、湖沼、海域)や下水道の環境保全に直結します。不適切な排水は、水質汚濁を引き起こし、生態系や人の健康、下流の利水(水道や農業用水など)に甚大な被害を及ぼす可能性があります。
こうした事態を防ぐため、国や地方自治体は様々な法律や条例を制定し、事業者の排水を厳しく規制しています。これらの法規制を「知らなかった」では済まされず、違反した場合は罰則、操業停止命令、そして何より企業の社会的信用の失墜という重大なリスクに直結します。
したがって、水処理設備の運用担当者や管理者は、関連法規を正しく理解し、日々の業務に反映させることが強く求められます。
水処理の根幹をなす「水質汚濁防止法」
水処理に関わる法律の中で、最も中心的かつ重要な法律が「水質汚濁防止法」(略称:水濁法)です。
1. 目的と対象 この法律は、公共用水域の水質保全を目的としています。規制の対象となるのは、有害物質の排出や生活環境項目(BOD、COD、SSなど)に影響を与える「特定施設」を設置する工場・事業場(「特定事業場」と呼ばれます)です。
2. 排水基準の遵守 特定事業場から公共用水域へ排出される「排出水」には、全国一律で適用される「一律排水基準」が定められています。さらに、都道府県は、地域の水質状況に応じて、一律排水基準よりも厳しい基準を条例で定める「上乗せ基準」を設定できます。
水処理設備は、これらの厳しい基準を安定的にクリアできるよう設計・維持管理されなければなりません。
3. 事故時の措置と報告 有害物質の流出や、基準値を超える排水が確認された場合など、事故発生時には直ちに応急措置を講じ、都道府県知事(または政令市の長)への届け出が義務付けられています。
公共下水道への排出を司る「下水道法」
排出先が公共用水域ではなく、公共下水道である場合、「下水道法」が適用されます。
1. 目的の違い 下水道法の主な目的は、下水道施設(管路や終末処理場)の機能保全と、終末処理場からの放流水の水質管理です。
2. 除害施設の必要性 工場排水に含まれる重金属や強酸・強アルカリ、高濃度の有機物などは、下水道管を損傷させたり、下水処理場の微生物処理機能を阻害したりする可能性があります。 そのため、下水道法では、事業者が自らの敷地内で一定の水質基準以下まで前処理を行うための施設、すなわち「除害施設」(水処理施設の一種)の設置を義務付けています。
水質汚濁防止法と下水道法は、どちらも水処理に関わりますが、排出先によって適用される法律と基準値が異なる点に注意が必要です。
その他、水処理に関連する主要法規
水処理業務は、上記2法以外にも広範な法律と関連しています。
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法): 水処理の過程で必ず発生する「汚泥」。この汚泥を処理・処分する際には、産業廃棄物として廃棄物処理法の規制を受けます。脱水、乾燥、リサイクル、あるいは最終処分までのプロセスが適法でなければなりません。
- 土壌汚染対策法: 有害物質を使用する水処理施設や配管からの漏洩は、土壌や地下水汚染の原因となります。同法に基づき、定期的な点検や、施設廃止時の調査義務などが課せられる場合があります。
- 各地方自治体の「条例」: 前述の上乗せ基準のように、多くの自治体では国の法律よりも厳しい独自の規制(例:水質だけでなく総量規制など)を条例で定めています。自社の事業所が立地する地域の条例は、必ず確認しなければならない事項です。
まとめ:法規制の遵守と適切な水処理技術の選定
水処理に関わる法律は多岐にわたり、内容も複雑です。さらに、環境意識の高まりとともに、これらの法規制は年々強化される傾向にあります。
自社の水処理設備が最新の法規制に対応できているか、排水基準を安定的に満たしているか、また、将来的な規制強化も見据えた運用ができているか、定期的に見直すことが極めて重要です。
これらの法規制への対応や、既存の水処理設備の運用・管理に少しでも不安や疑問がある場合は、放置せずに専門の業者へ相談することを強く推奨します。
専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。


