【水処理技術】BOD分析値と実生物処理の乖離:有機物の分解特性と経時変化の評価手法

BOD値だけでは見えない「水処理」の実際

排水処理、特に生物処理の管理において、BOD(生物化学的酸素要求量)は最も基本的かつ重要な指標の一つです。多くの工場や施設で、放流基準の順守や処理槽の負荷管理のためにBODが測定されています。

しかし、現場の技術者の皆様は、このような経験がないでしょうか。「BODの値は設計範囲内なのに、処理水質が安定しない」「新しい排水を導入したら、予期せぬバルキングが起きた」。

これは、一般的な「BOD5(5日間BOD)」という指標が持つ、ある種の「盲点」に起因しています。本稿では、水処理の現場で発生しやすいBOD分析値と実際の生物処理とのギャップ、そしてその解決策としての分解特性の評価について解説します。

BOD5が示すのは「5日後の結果」に過ぎない

JIS K 0102などの公定法で定められたBOD測定は、試料を20℃で5日間培養し、その間に消費された溶存酸素量を測定します。ここで重要なのは、私たちが得られる数値はあくまで「5日間の総量」であるという点です。

例えば、同じ「BOD 100mg/L」の排水Aと排水Bがあったとします。

  • 排水A: 1日目で酸素の90%を消費し、残りの4日間はほぼ変化なし。
  • 排水B: 5日間かけてじわじわと一定のペースで酸素を消費し続ける。

数値上は同じ100mg/Lですが、実際の水処理設備(曝気槽)の中での挙動は全く異なります。排水Aは瞬発的な酸素供給が必要ですが、滞留時間は短くて済む可能性があります。一方、排水Bは長い滞留時間を確保しなければ、未処理のまま流出してしまうリスクがあります。

有機物の「易分解性」と「難分解性」

水処理エンジニアリングの視点では、有機物が微生物によってどれくらいの速度で分解されるか、すなわち「易分解性(分解しやすい)」か「難分解性(分解しにくい)」かを見極めることが極めて重要です。

  • 易分解性有機物: 糖類など、微生物が即座に資化できるもの。処理速度は速いが、急激な酸素消費(DO低下)を招きやすい。
  • 難分解性有機物: 複雑な高分子構造を持つものや、セルロースなど。分解に時間がかかるため、標準的な滞留時間では処理しきれない場合がある。

単なるBODの数値(点)ではなく、微生物が有機物を二酸化炭素へと分解していく過程(線)を把握しなければ、適切な処理設計やトラブルシューティングは困難です。

微生物の呼吸活性を経時的に追跡する手法

この「分解のスピード」を可視化するために有効なのが、BODメーター(呼吸速度計)を用いた経時的変化の測定です。

一般的なBOD瓶による測定とは異なり、密閉容器内で微生物が酸素を消費することで発生する圧力変化や、CO2の発生量をセンサーで連続的にモニタリングします。これにより、横軸に時間、縦軸に酸素消費量をとったグラフ(分解曲線)を描くことができます。

このような測定機器は各分析機器メーカーから販売されています。代表的な例として、東亜ディーケーケー株式会社の「BOD Track Ⅱ」などが挙げられます。これらの装置を使用することで、対象の排水が「最初の数時間で急激に分解されるのか」、それとも「後半まで分解が続くのか」を視覚的に判断することが可能になります。

生産品目変更時のリスク評価とコストダウン

工場において生産品目が変わったり、新しい原材料への切り替えが発生したりする場合、排水の性状も変化します。

初期検討として、BODとCOD(化学的酸素要求量)を測定し、その比率(BOD/COD比)から生物処理の適用性を推測する方法が一般的です。しかし、これだけでは前述の「分解速度」までは分かりません。

最も確実なのは、実際の生物処理槽を模した小型の連続実験装置(ミニプラント)を設置し、通水実験を行うことです。しかし、連続実験は装置の製作費や維持管理の人件費など、非常にコストと時間がかかります。頻繁な原料変更のたびに実施するのは現実的ではありません。

そこで、BODメーターを用いたバッチ式の分解試験が有効な代替案となります。 「既存の生物処理槽の滞留時間(例えば8時間)で、この新規排水の有機物は十分に分解されきるのか?」という問いに対し、ラボレベルの簡易な試験で高い精度の予測を立てることができるのです。

専門業者への相談とセカンドオピニオンの活用

今回ご紹介したような、有機物の分解速度や経時変化を見る試験は、一般的な水質分析の受託会社(計量証明事業所)では対応していないケースが多々あります。彼らの主業務はあくまで「公定法に基づいた数値の算出」であり、プロセス解析ではないからです。

そのため、こうした詳細な評価が必要な場合は、プロセス設計や運転管理の知見を持つ水処理の専門業者に問い合わせる必要があります。






専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

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