水処理技術解説:BODとCODの数値逆転現象とその要因
水質管理の現場において、有機物汚染の指標としてBOD(生物化学的酸素要求量)とCOD(化学的酸素要求量)は最も頻繁に測定される項目です。一般的に、CODは化学的に強制酸化させるため、微生物分解に依存するBODよりも高い数値(COD > BOD)を示すのが通例です。
しかし、排水の種類や測定条件によっては「BOD > COD」という逆転現象が生じることがあります。本記事では、この現象がなぜ起こるのか、その技術的背景と測定法の違いについて深掘りします。
1. BODがCODを上回る主な要因:窒素成分の影響
BOD測定において、試料中にアンモニア性窒素などの窒素化合物が多く含まれている場合、数値が跳ね上がることがあります。これは、有機物の分解だけでなく、硝化菌(亜硝酸菌・硝酸菌)が窒素を酸化する際にも酸素を消費するためです。
これを硝化に伴う酸素消費(N-BOD)と呼び、本来の有機物分解による酸素消費(C-BOD)に加算されることで、化学的酸化であるCODの数値を上回ってしまうケースがあります。
2. COD測定における酸化剤の種類と「酸化力」の差
「BOD > COD」の謎を解くもう一つの鍵は、CODの測定手法にあります。ここで重要になるのが、CODクロム(CODcr)とCODマンガン(CODmn)の酸化力の違いです。
- CODクロム (CODcr): 二クロム酸カリウムを酸化剤として使用。酸化力が非常に強く、ほとんどの有機物を分解できるため、理論的酸素要求量(ThOD)に近い値が出ます。
- CODマンガン (CODmn): 過マンガン酸カリウムを使用。日本の環境基準で採用されていますが、クロム法に比べると酸化力が弱く、糖類などは分解しやすい一方で、一部の有機物は完全には酸化されません。
日本の工場排水試験(CODmn)では、特定の有機物に対して「微生物(BOD)は分解できるが、マンガン法(COD)では十分に酸化しきれない」という状況が発生し、結果としてBODが高く算出されるのです。
※CODcrとCODmnの違いの記事はコチラ
3. 生成AI活用の落とし穴:国際基準と日本基準の混同
昨今、水処理のトラブルシューティングに生成AIを活用するケースが増えています。しかし、ここで注意が必要なのが、AIが参照するデータのバイアスです。
世界的に見ると、排水基準の主流は「CODクロム」です。そのため、生成AIに「BODとCODの相関」を尋ねると、海外の文献に基づき「CODはBODより必ず大きくなる(CODcr > BOD」という回答を生成しがちです。
日本の現場で主流の「CODマンガン」の特性を考慮せず、AIの回答をそのまま鵜呑みにすると、水質管理の判断を誤るリスクがあります。日本の規制環境に即した解釈には、国内の公定法(JIS K 0102)に基づいた専門的な知見が不可欠です。
4. まとめ:正確な水質判断のために
BODとCODの数値関係は、単なる計算式ではなく、微生物の活性、窒素の含有量、そして採用している測定法の酸化力といった複数の要素が絡み合っています。「数値がおかしい」と感じたときは、排水の組成を多角的に分析する必要があります。
水処理施設の管理や設計において、判断に迷うことがあれば、まずは信頼できる専門業者へ相談することをお勧めします。
もし、身近に相談できる専門業者がいない場合や、現在の管理体制に対して第三者の客観的な意見・知見を取り入れたいとお考えの際は、「工場のセカンドオピニオン」であるウォーターデジタル社までお気軽にお問い合わせください。専門的な視点から、貴社の水処理最適化をサポートいたします。


