【年末年始の操業対策】水処理施設における薬品在庫管理とリードタイム変動リスクの技術的検討
師走に入り、街は年末年始の準備で慌ただしくなってきました。
各工場の施設管理ご担当者様におかれましても、休暇中のシフト調整や設備のメンテナンス計画に追われている時期かと存じます。
水処理施設の安定稼働において、この時期に最も警戒すべきは「凍結」と、そして今回取り上げる物流停滞による薬品切れのリスクです。
本記事では、年末年始の長期休暇を前に、水処理エンジニアの視点から薬品タンクの運用計画と、リードタイム変動時のリスク管理について解説します。
通常時の「ローリーコール」運用の仕組み
まず、基本的な薬品タンクの管理モデルをおさらいします。
一般的な水処理施設では、以下の3つの液位レベルを設定して運用しています。
- 満水(Full): タンクの上限容量。
- ローリーコール(発注点): 薬品を発注するトリガーとなる液位。
- 低水位(Low Level): 供給ポンプ停止や警報が出る危険ライン。
【平時の運用サイクル】
通常期であれば、ローリーコールが発報した時点で薬品メーカーへ発注をかければ、国内物流網なら概ね2日程度で現場に到着します。
この設計であれば、タンク内の残液が尽きる(低水位を割る)前に補充が完了するため、水処理プロセスは問題なく継続します。

年末年始に多発する「リードタイム」の誤算
しかし、12月末から1月上旬にかけては、この前提が崩れます。
ご提示した図の下段が示すように、年末年始はメーカーの休業や運送会社の便数減少、交通渋滞などが重なり、発注から納品までのリードタイムが大幅に長期化します。
【この時期に起こりうるトラブル】
普段通りの「ローリーコール」設定で自動運用していると、以下のような事態に陥るリスクがあります。
- 年末にローリーコールで発注指示が出る。
- 休暇配送体制により、納品まで5日以上を要すると回答が来る。
- 到着を待つ間も工場が稼働(あるいは排水処理設備のみ稼働)している場合、在庫が減り続ける。
- 補充車が到着する前に「低水位」に達し、水処理施設が緊急停止する。
これは、年明け早々のトラブルとして非常に多い事例です。
今すぐ確認すべき「発注点」の再計算
このリスクを回避するために、休暇に入る前に以下の工学的な再計算を行ってください。
必要な発注点在庫 = (1日の平均消費量 \年末年始の最大リードタイム) + 安全在庫
もし、現在のローリーコール位置にある残量が、この計算結果よりも少ない場合は、システム上の発注警報を待たずに、手動で満タンまで補充しておく必要があります。
特に今年は物流事情の変化もあり、例年以上に配送スケジュールがタイトになる可能性があります。
「ギリギリもつだろう」という推測は危険です。余裕を持った在庫確保が、平穏な正月休みを迎えるための鍵となります。
恒久的な対策:設備とシステムの見直し
来年度以降に向けた恒久的な対策として、以下の技術的アプローチも検討をお勧めします。
1. タンク容量の適正化(CapEx)
リードタイムが1週間程度に延びても耐えられるよう、バッファタンクの増設や有効容量の見直しを行う。
2. レベルスイッチの季節変動運用(Instrumentation)
通常用の発注点とは別に、より高い位置で発報する「連休用発注点」を設定し、スイッチ一つで運用モードを切り替えられる計装システムを導入する。
3. IoTによる在庫監視(DX)
現場に行かずともスマホ等でタンク残量を確認できる遠隔監視システムを導入し、休暇中の不安を解消する。
まとめ:水処理の安定は「段取り」で決まる
水処理は「水」だけでなく「モノ(薬品)」の流れを管理する技術でもあります。
トラブルが起きてからメーカーに電話をしても、年末年始は繋がらないことがほとんどです。今のうちに発注スケジュールの確認と、タンク残量のチェックを済ませてください。
専門家への相談とセカンドオピニオン
年末年始の薬品確保や、タンク容量の計算、今後の設備改修については、まずは契約されている薬品会社やプラントメーカーへお早めにご相談ください。
専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。


