【水処理の基礎知識】工場設備担当者が押さえておきたい専門用語3選 (1)

工場の安定稼働に不可欠な水処理。しかし、その専門用語は独特で、初めて設備担当になられた方にとっては、日々の業務で飛び交う言葉の意味を理解するだけでも一苦労かもしれません。
このブログシリーズでは、そんな水処理の現場でよく使われる基本的な専門用語を、分かりやすく解説していきます。
第一回目は、水質の状態を把握し、適切な水処理を行うために必須となる3つの重要な用語を取り上げます。これらの用語を理解することで、水処理の状況把握や専門業者とのコミュニケーションがよりスムーズになるはずです。
SS (Suspended Solids) とは? – 水の濁りの正体とその影響
まず初めに解説するのはSSです。「Suspended Solids」の略で、日本語では「浮遊物質」または「懸濁物質」と訳されます。文字通り、水中に浮遊または懸濁している不溶性の固形物を指し、具体的には粒子径2mm以下のものを指します。これらが「水の濁り」の主な原因となります。
SSの成分は多岐にわたり、工場排水の種類によっても異なります。例えば、粘土鉱物のような無機性の粒子、食品工場などから排出される有機性の固形物、あるいは微生物やその死骸などが含まれます。
SSが高いと何が問題か?
SSの値が高いということは、水がそれだけ濁っていることを意味します。これが環境へ直接的な負荷を与えるだけでなく、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 後段処理設備への負荷増大: ろ過装置のフィルターが早期に目詰まりしたり、配管内に堆積して閉塞を引き起こしたりします。
- 処理効率の低下: 生物処理槽などで微生物の働きを阻害したり、薬品処理の効果を低下させたりすることがあります。
- 放流水質の悪化: 処理が不十分なまま放流されると、河川や海を汚染し、水生生物へ悪影響を与えます。
- 汚泥発生量の増加: 除去されたSSは汚泥となるため、SS濃度が高いほど汚泥の発生量が増え、その処理コストも増加します。
工場排水においてSSは基本的な監視項目であり、排水基準でも厳しく規制されています。凝集沈殿処理や加圧浮上処理、ろ過処理など、様々な方法で除去され、基準値以下に管理することが求められます。
BOD (Biochemical Oxygen Demand) とは? – 水中の有機汚濁と環境への影響
次に解説するのはBODです。「Biochemical Oxygen Demand」の略で、日本語では「生物化学的酸素要求量」と訳されます。これは、水中の有機物が微生物によって分解される際に消費される酸素の量を示す指標です。
水中に有機物が多く含まれていると、それを栄養源とする微生物(主に好気性微生物、つまり酸素を必要とする微生物)が活発に増殖し、有機物を分解します。この分解過程で水中の溶存酸素が消費されます。したがって、BODの値が高いということは、水中に微生物によって分解されやすい有機物が多く存在し、その浄化に多くの酸素が必要になることを意味します。
BODが高いと何が問題か?
BODが高い水が河川や湖沼などの公共用水域に排出されると、水中の溶存酸素が急激に減少し、魚介類や好気性の水生生物が酸欠状態に陥り、最悪の場合は死滅してしまいます。これが富栄養化の一因ともなり、水環境に深刻なダメージを与える可能性があります。
そのため、BODは河川の汚染状況を示す代表的な指標として、また工場排水の排出規制における重要な項目として、広く用いられています。一般的に、BODの測定には5日間(20℃)を要し、その間に消費された酸素量から値を算出します。工場排水処理においては、このBODをいかに効率よく低減させるかが大きな課題の一つです。
pH (Potential of Hydrogen) とは? – 水の性質を左右する重要な指標
最後に解説するのはpH(ピーエイチ、またはペーハー)です。「Potential of Hydrogen」の略で、「水素イオン濃度指数」と訳されます。これは、水溶液の酸性またはアルカリ性の度合いを示す尺度です。
pHは0から14までの数値で表され、中間の7が中性を示します。7よりも小さい場合は酸性、7よりも大きい場合はアルカリ性となります。数値が0に近いほど酸性が強く、14に近いほどアルカリ性が強いことを意味します。
pHが水処理において重要な理由
水処理の各プロセスにおいて、pHは非常に重要な管理項目です。
- 生物処理への影響: 活性汚泥法などの生物処理では、微生物が最も活発に活動できる至適pH範囲が存在します(一般的に中性付近)。pHがこの範囲から大きく外れると、微生物の活動が著しく低下し、処理能力が悪化します。
- 化学処理への影響: 凝集処理などで使用する凝集剤の効果は、pHによって大きく左右されます。最適なpH条件下でなければ、十分な凝集効果が得られず、SSやその他の汚濁物質の除去効率が低下します。
- 設備の腐食: 極端な酸性またはアルカリ性の水は、配管やタンクなどの設備を腐食させる原因となります。これにより、設備の寿命が短くなったり、漏洩事故に繋がったりする可能性があります。
- 放流水質の規制: 排水基準では、公共用水域や下水道への放流水のpHについて、通常5.8~8.6(または5.0~9.0など、地域や業種により異なる)といった範囲が定められており、これを遵守する必要があります。
まとめ
今回は、水処理の現場で基本となる3つの用語、SS、BOD、そしてpHについて解説しました。これらの用語の意味と重要性を理解することは、日々の業務における水質の状況把握、トラブル発生時の原因究明、さらには専門業者との円滑なコミュニケーションに不可欠です。
水処理に関するお悩みや疑問点、あるいは既存の処理方法の改善をご検討の際は、まずは信頼できる専門業者にご相談いただくことをお勧めします。
専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。