工場の生産品目変更に伴う水処理設備の注意点：排水処理トラブルを未然に防ぐための事前準備
10月は多くの工場で下期の生産計画が始まり、人事異動や生産品目の変更などが行われる時期です。生産効率の向上や新製品への対応は企業の成長に不可欠ですが、その裏で水処理、特に排水処理設備に大きな負荷がかかる可能性があることを見過ごしてはなりません。
実際に、工場の排水処理におけるトラブルの多くは、生産ラインの変更が引き金となって発生します。これまで安定稼働していた排水処理設備が、急に処理不良を起こし、排水基準を超過してしまうといった事態は避けなければなりません。
本記事では、生産品目の変更時に排水処理で起こりうる問題と、それを未然に防ぐための具体的な事前準備について解説します。
なぜ生産ラインの変更で排水処理トラブルが起こるのか？
生産品目が変わるということは、使用する原材料や化学薬品、洗浄方法などが変わることを意味します。これにより、排出される水の「性質」と「量」が変化し、既存の排水処理設備に影響を及ぼします。
水質の変化
新しい生産プロセスでは、これまで排出されなかった物質が排水に混入する可能性があります。
- pHの変化： 酸性またはアルカリ性の薬品使用による変動
- 汚濁物質濃度の変化： BOD/COD、SS（浮遊物質）などの有機物・浮遊物濃度の増減
- 特定物質の混入： 油分、重金属、特定の化学物質などの新たな混入
- 生物処理への影響： 微生物を利用する活性汚泥法などの生物処理において、微生物に毒性を示す物質が流入し、処理能力が著しく低下するケース
水量の変化
生産量の増加や、新たな洗浄工程の追加により、全体の排水量が増加することがあります。既存の設備の処理能力を超える排水が流入すれば、当然ながら処理が追いつかず、未処理水が流出する原因となります。
【最重要】トラブルを未然に防ぐための事前準備と確認事項
排水処理の安定稼働を維持するためには、生産ライン変更前の計画的な準備が不可欠です。最低でも以下の3つのステップで確認を進めることを推奨します。
ステップ1：変更後の排水特性を正確に把握する
まずは「敵を知る」ことが重要です。新しい生産ラインからどのような水質・水量の排水が出るのかを、できる限り正確に予測します。
- 使用化学物質の確認： 新たに使用する薬品や原材料のSDS（安全データシート）を確認し、含有物質が排水処理に与える影響を評価します。
- ラボ試験の実施： 可能であれば、試作段階で発生する排水をサンプリングし、専門の分析機関で水質分析を行います。これにより、実際の排水特性を事前に把握できます。
ステップ2：既存の排水処理設備の能力を再評価する
次に「己を知る」ことです。現在の排水処理設備が、予測される新しい排水に対応できる能力を持っているか評価します。
- 設計仕様の確認： 排水処理設備の設計書や仕様書を元に、各処理工程（物理処理、化学処理、生物処理など）の処理能力（時間当たりの処理水量、汚濁物質の除去能力など）を再確認します。
- 現状の運転データとの比較： 現在の運転データと設計仕様を照らし合わせ、設備の余力や脆弱な部分を洗い出します。
ステップ3：法的規制・協定値を遵守できるか確認する
最後に、法律という「ルールを知る」ことです。工場の排水は、水質汚濁防止法や下水道法、地域の条例などによって厳しい基準が定められています。
- 排水基準の再確認： 自社工場に適用される排水基準値と、変更後の予測排水水質を照らし合わせ、基準を超過するリスクがないかを確認します。特に、新たな化学物質が規制対象になっていないかは重要な確認項目です。
具体的な対策の検討
事前評価の結果、既存設備では対応が難しいと判断された場合は、具体的な対策を検討する必要があります。
- 運転条件の最適化： 薬品注入率の調整や、生物処理における曝気量・汚泥濃度の見直しなど、運転条件の変更で対応できる場合もあります。
- 設備の改造・増強： 反応槽の増設、処理能力の高い機器への更新、凝集剤の変更といったハード面での対策が必要になることもあります。
- 前処理設備の導入： 特定の有害物質を除去するための前処理装置を追加することも有効な手段です。
まとめ：計画的な準備が工場の安定稼働を守る
生産ラインの変更は、工場の新たな一歩ですが、排水処理という重要なインフラへの影響評価を怠ると、生産停止や環境汚染といった深刻な事態を招きかねません。
急なトラブルに見舞われる前に、計画段階から排水処理への影響を考慮し、十分な事前準備を行うことが、結果的に工場の安定稼働と企業の信頼を守ることに繋がります。
もし、自社での評価や対策の検討が難しいと感じた場合や、より専門的な知見が必要な場合は、水処理の専門業者に相談することをお勧めします。
専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。
