排水の色度基準と代表的な処理技術の解説

工場の安定操業において、排水処理は極めて重要な管理項目です。特に排水の色度は、河川や海域の景観を損なうだけでなく、水生生物への影響も懸念されるため、適切な管理と処理が求められます。

本記事では、排水の色度に関する法規制の考え方と、現場で採用されている代表的な処理方法について、技術的な観点から詳しく解説します。

排水における「色度」とは

まず、「色度」の定義から確認しましょう。色度とは、水がどの程度着色しているかを示す指標です。プラチナ (Pt) とコバルト (Co) の標準液を基準として、「度」という単位で表されます。数値が大きくなるほど、色のついた水であることを意味します。

排水の色度は、主に以下の二つに分類されます。

  • 真の色度 (True Color): 浮遊物質(SS)などを完全に除去した後の、水に溶解している物質のみによって生じる色。
  • 見かけの色度 (Apparent Color): 浮遊物質を含んだままの状態で測定した色。

排水処理で問題となるのは、主に溶解性の物質に由来する「真の色度」です。これは、通常の沈殿処理などでは除去が困難なため、専門的な処理技術が必要となります。

排水の色度に関する法規制

意外に思われるかもしれませんが、水質汚濁防止法で定められている一律の排水基準には、「色度」の項目は含まれていません。しかし、これは「色度を気にしなくて良い」という意味ではありません。

多くの地方自治体では、地域の環境を保全するために、法律よりも厳しい基準を条例で定める「上乗せ条例」を制定しています。この条例によって、特定の業種や地域に対して色度の排出基準が設けられているケースが多数存在します。

また、下水道へ排水する場合は、下水道法に基づく排除基準が適用され、色度に関する規定が設けられていることがあります。

自社の排水がどの規制の対象となるのか、所轄の自治体や下水道局の条例・指導を正確に把握することが、コンプライアンスの第一歩となります。

代表的な色度処理方法

排水の着色原因となる物質は、製造プロセスによって様々です。そのため、排水の性状に応じて最適な処理方法を選定する必要があります。ここでは、代表的な4つの処理方法の原理と特徴を解説します。

1. 凝集沈殿法

凝集沈殿法は、水処理において最も一般的に用いられる方法の一つです。凝集剤(ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸バンドなど)を添加し、水中の微細な色度成分を凝集させて大きな塊(フロック)を形成させ、沈殿分離します。

  • メリット: 比較的低コストで、浮遊物質(SS)の除去と同時に行える場合が多い。
  • デメリット: 溶解性の色度成分に対しては効果が限定的な場合がある。薬品注入の管理が必要であり、処理の結果として汚泥が発生する。
2. 活性炭吸着法

活性炭が持つ無数の微細な孔(細孔)に、色度原因物質を物理的に吸着させて除去する方法です。特に、凝集沈殿では除去しきれない溶解性の色度成分に対して高い効果を発揮します。

  • メリット: 幅広い種類の溶解性有機物に対応でき、安定した処理水質が得やすい。
  • デメリット: 活性炭の吸着能力には限界があるため、定期的な交換や再生が必要となり、ランニングコストが高くなる傾向がある。
3. オゾン処理法

オゾン (O3​) の持つ非常に強力な酸化力を利用して、色度原因物質を化学的に分解する方法です。有機物の二重結合などを切断することで、発色団を破壊し、無色化あるいは低分子化します。

  • メリット: 汚泥の発生量が少ない。COD(化学的酸素要求量)の低減や殺菌効果も期待できる。
  • デメリット: オゾン発生装置などが必要なため、設備コストや電力コストが高い。排水の性状によっては、臭素酸イオンなどの有害な副生成物が生成される可能性に注意が必要。
4. 膜分離法

逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)といった非常に微細な孔を持つ膜を用いて、水分子と色度成分を物理的に分離する方法です。

  • メリット: 溶解性のイオンや低分子有機物まで高レベルで除去でき、極めて清澄な処理水を得られる。
  • デメリット: 膜の目詰まり(ファウリング)を防ぐための前処理や維持管理が重要。分離された色度成分は濃縮水として発生するため、その処理も別途検討する必要がある。設備コストも高価です。

最適な処理方法の選定に向けて

ここまで紹介したように、色度処理には様々な選択肢があり、それぞれに一長一短があります。最適な処理方法を選定するためには、以下の要素を総合的に評価する必要があります。

  • 排水の性状: 色度の原因物質、濃度、変動、共存する他の汚濁物質
  • 処理目標: 条例などの規制値、自主管理目標値
  • コスト: 設備投資(イニシャルコスト)、維持管理費(ランニングコスト)
  • 設置スペースや既存設備との連携

単独の技術で対応するだけでなく、「凝集沈殿+活性炭吸着」や「オゾン処理+生物処理」のように、複数の技術を組み合わせることで、より効率的かつ経済的な処理が可能になる場合も少なくありません。


まとめ

排水の色度でお困りの際は、まず排水処理の専門業者に現状を詳しく伝え、水質分析に基づいた最適な処理方法について相談することをお勧めします。

専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

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