排水処理における主要薬品の種類と安全な取り扱い方法

工場排水や生活排水など、私たちの活動から排出される水は、環境へ影響を与える前に適切に処理される必要があります。この「水処理」プロセスにおいて、薬品は不可欠な役割を担っています。
本記事では、排水処理で頻繁に利用される代表的な薬品の種類と、それらを安全に取り扱うための注意点について、技術的な観点から解説します。
排水処理における薬品の役割
排水処理では、水中の汚濁物質を除去したり、無害化したりするために様々な薬品が使用されます。薬品の選定や使用方法は、排水の性質や処理目標によって異なり、適切な知識と管理が求められます。
効果的な水処理を実現するためには、これらの薬品の特性を理解することが第一歩となります。
代表的な排水処理薬品
排水処理で用いられる薬品は多岐にわたりますが、ここでは主要なものをいくつか紹介します。
1. 凝集剤
凝集剤は、排水中に浮遊する微細な汚濁物質(SS)を集合させ、大きく重いフロック(塊)を形成させるために使用されます。これにより、沈殿や浮上分離といった後段の固液分離プロセスで効率的に除去できるようになります。
- 無機凝集剤: 硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄などが代表的です。比較的安価で、幅広い種類の排水に適用できます。
- 高分子凝集剤: ポリアクリルアミド系のものが多く、アニオン系、カチオン系、ノニオン系などがあります。無機凝集剤と併用することで、より強固で大きなフロックを形成し、沈降速度を高める効果が期待できます。
2. pH調整剤
排水のpH値は、生物処理や化学反応の効率に大きく影響します。また、放流基準を満たすためにもpH調整は不可欠です。
- 酸: 排水のpHが高い場合に用いられます。硫酸、塩酸、硝酸などが一般的です。
- アルカリ: 排水のpHが低い場合に用いられます。水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸ナトリウムなどが一般的です。
3. 消毒剤・殺菌剤
処理水中の細菌やウイルスを死滅させ、衛生的な安全性を確保するために使用されます。
- 塩素系薬剤: 次亜塩素酸ナトリウム、液体塩素などが代表的です。安価で効果が高い反面、取り扱いや副生成物(トリハロメタンなど)に注意が必要です。
- オゾン: 強力な酸化力を持ち、脱臭や脱色効果も期待できますが、設備コストが高い傾向があります。
- 紫外線: 薬品を使用しないため、副生成物の心配がありませんが、水の濁度が高いと効果が低下します。
4. 消泡剤
排水処理プロセス、特に活性汚泥法などの生物処理では、微生物の活動や界面活性剤の存在により泡が発生することがあります。過度な発泡は処理設備の運転に支障をきたすため、消泡剤が使用されます。シリコーン系、アルコール系、鉱油系など様々な種類があります。
5. 酸化剤・還元剤
特定の汚染物質を化学的に分解・無害化するために使用されます。例えば、シアン化合物や六価クロムなどの有害物質の処理に用いられます。過マンガン酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどが代表例です。
薬品取り扱い上の注意点
排水処理薬品は、その効果の反面、人体や環境に対して有害な性質を持つものも少なくありません。安全な取り扱いを徹底することが極めて重要です。
1. 保護具の着用
薬品を取り扱う際は、必ず適切な保護具(保護メガネ、保護手袋、保護マスク、保護衣など)を着用してください。薬品の種類や濃度に応じて、適切な材質や性能の保護具を選定することが重要です。
2. SDS(安全データシート)の確認と理解
使用する薬品のSDSには、その薬品の危険有害性、取り扱い方法、応急処置、保管方法などが記載されています。作業前に必ず内容を確認し、理解した上で取り扱ってください。
3. 換気の確保
揮発性の高い薬品や、反応によって有毒ガスが発生する可能性のある薬品を取り扱う場合は、十分な換気を行い、作業環境中のガス濃度を許容濃度以下に保つ必要があります。
4. 混合禁止の徹底
薬品によっては、混合することで発熱、発火、有毒ガスの発生などを引き起こすものがあります。特に酸とアルカリ、塩素系薬剤と酸性物質の混合は非常に危険です。誤混合を防ぐため、薬品の保管場所や使用器具の管理を徹底してください。
5. 適切な保管
薬品は、直射日光を避け、冷暗で換気の良い場所に保管してください。また、薬品の種類に応じて、耐食性のある容器を使用し、転倒や破損を防ぐ措置を講じてください。関連法規(消防法、毒物及び劇物取締法など)で定められた保管方法を遵守することも不可欠です。
6. 漏洩時の措置
万が一薬品が漏洩した場合は、慌てずにSDSに記載された適切な措置を講じてください。少量であれば中和剤や吸収材で処理し、大量の場合は専門業者に連絡するなど、状況に応じた対応が必要です。
7. 作業手順の遵守と教育訓練
薬品の取り扱いに関する作業手順を定め、作業員に周知徹底するとともに、定期的な安全教育や訓練を実施することが重要です。特に新規採用者や作業内容が変更になった場合は、十分な教育が必要です。
まとめ
排水処理における薬品は、適切な「水処理」を実現するための強力なツールですが、その取り扱いには細心の注意が必要です。本記事で紹介した薬品の種類と注意点は一部であり、個々の薬品の特性を正しく理解し、安全管理を徹底することが、作業者の安全確保と環境保全に繋がります。
排水処理薬品の選定や管理、取り扱い方法についてご不明な点がある場合や、より専門的なアドバイスが必要な場合は、経験豊富な専門業者にご相談いただくことをお勧めします。
専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。