活性汚泥法の安定稼働を実現する「種汚泥」の選定と入手、確保できない場合の代替策

水処理、特に生物処理の中核をなす活性汚泥法において、新規設備の立ち上げやリアクターの再起動時に最も重要となるのが「種汚泥」の確保です。この初期段階での種汚泥の選定と投入が、その後の処理性能の安定化や立ち上げ期間の短縮に直結します。本ブログでは、活性汚泥の立ち上げに不可欠な種汚泥の適切な選び方、入手方法、そして万が一入手できない場合の対応策について技術的な観点から解説します。


活性汚泥の立ち上げにおける種汚泥の役割

活性汚泥法は、曝気槽内の微生物群(活性汚泥)の働きによって排水中の有機物を分解、除去する処理方法です。新しい曝気槽を稼働させる際、槽内には汚濁物質を分解する微生物がほとんど存在しません。そのため、ゼロから微生物が自然に増殖するのを待つと、処理機能が安定するまでに数週間から数ヶ月という長い期間を要してしまいます。

そこで「種汚泥(たねおでい)」と呼ばれる、他の安定稼働している水処理施設から分けてもらった活性汚泥を投入します。これにより、初期から必要な微生物群を曝気槽内に確保し、立ち上げ期間を大幅に短縮させることが可能になります。


良質な種汚泥の選定基準

種汚泥であれば何でも良いというわけではありません。不適切な種汚泥を選択すると、立ち上げに失敗したり、後々のトラブル(バルキング、処理水質の悪化など)の原因になったりする可能性があります。良質な種汚泥を選ぶための基準は以下の通りです。

1. 処理対象排水の類似性 最も重要なのは、自社の排水と類似した性質の排水を処理している施設の汚泥を選ぶことです。例えば、食品工場の排水を処理するのであれば、同じく食品系の排水を処理している施設の種汚泥が最適です。微生物は特定の有機物への馴養(じゅんよう)が進んでいるため、排水の性質が近いほど、立ち上げ後の馴染みが早く、処理が安定しやすくなります。

2. 活性汚泥の性状確認 可能であれば、種汚泥の性状を事前に確認することが望ましいです。

  • SV30(30分間汚泥沈降率): 活性汚泥の沈降性を示す指標です。一般的に15~30%程度が良好とされます。
  • SVI(汚泥容量指標): 汚泥の沈降性や圧密性を評価する指標で、100~150程度が目安です。SVIが高すぎる汚泥は、糸状性細菌の異常増殖によるバルキングを起こしている可能性があり、避けるべきです。
  • 鏡検: 顕微鏡で微生物相を観察します。原生動物(アメーバ、繊毛虫など)や後生動物(ワムシ、ミジンコなど)が活発に活動している汚泥は、食物連鎖が健全に機能している良い汚泥であると判断できます。

3. 有害物質による影響の有無 有害物質や高濃度の阻害物質が流入している工場の汚泥は、微生物の活性が低かったり、特定の微生物しか生息していなかったりする場合があります。そのような汚泥を種汚泥として使用すると、自社の排水に適応できず、立ち上げがうまくいかないリスクがあります。


種汚泥の具体的な入手方法

良質な種汚泥が見つかったら、次は入手です。主な入手先としては以下が挙げられます。

  • 近隣の同業種の工場: 最も理想的な入手先です。日頃から情報交換を行い、協力関係を築いておくことが重要です。
  • 地域の共同排水処理施設: 複数の工場からの排水をまとめて処理しているため、比較的汎用性の高い微生物群が期待できます。
  • 下水処理場: 入手しやすいですが、生活排水を主としているため、高濃度の有機物を含む産業排水への馴養には時間がかかる場合があります。
  • 産業廃棄物処理業者: 汚泥の運搬・処理を専門としている業者に相談するのも一つの手です。

入手にあたっては、運搬方法も重要です。汚泥は長時間放置すると嫌気状態になり、微生物が死滅したり性状が悪化したりします。可能な限り短時間で運搬し、速やかに曝気槽へ投入する必要があります。


種汚泥が入手できない場合の対応策

様々な事情で、どうしても適切な種汚泥が入手できないケースも存在します。その場合は、次善の策を検討する必要があります。

1. 空曝気による自然発生 種汚泥を一切投入せず、排水を曝気槽に張り込み、曝気を続けることで自然に存在する微生物が増殖するのを待つ方法です。最も時間がかかり、どのような微生物群が優占種となるか予測が難しく、立ち上げ期間が長期化するリスクがあります。

2. 市販の微生物製剤の利用 排水処理用に開発された市販の微生物製剤(バイオ製剤)を投入する方法です。特定の有機物の分解に特化した菌や、立ち上げを促進する成分が含まれているものがあります。ただし、あくまで補助的な手段であり、製剤だけで活性汚泥を形成するのは困難な場合が多いです。自社の排水に合った製剤を専門家と相談の上で選定することが重要です。

3. 他の有機物の投入 米のとぎ汁や少量の生活排水などを投入し、微生物の餌とすることで増殖を促す方法もありますが、投入量を誤ると水質を悪化させるリスクもあり、慎重な判断が求められます。


まとめ:安定稼働に向けた第一歩

活性汚泥法の立ち上げは、その後の長期にわたる水処理の安定性を決定づける重要な工程です。特に、種汚泥の選定は、立ち上げ期間の短縮と安定した処理性能の確保という二つの側面から、決して軽視できない要素と言えます。初期段階で適切な対応を行うことが、将来的な運転管理コストの削減や環境リスクの低減に繋がります。

排水処理の立ち上げや運用において課題を感じた際は、まず専門の業者に相談することをお勧めします。

専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

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