CODcrとCODmn:水質評価における化学的酸素要求量の指標とその違い ~なぜ日本ではCODmnが主流なのか?~

水環境の保全は、現代社会における最重要課題の一つです。工場排水や生活排水など、あらゆる水域において、水質汚濁の状況を正確に把握し、適切な水処理を行うことが求められています。その際に用いられる代表的な水質指標の一つがCOD(化学的酸素要求量)です。

CODは、水中の被酸化性物質を酸化するために必要とされる酸素の量を指し、有機物による汚濁の程度を示す指標として広く活用されています。しかし、CODの測定方法にはいくつか種類があり、それぞれ特徴や示す値が異なります。本記事では、代表的なCOD測定法であるCODcr(二クロム酸カリウム法)とCODmn(過マンガン酸カリウム法)について、その違いを詳しく解説するとともに、なぜ日本国内ではCODmnが広く採用されているのか、その背景にも触れていきます。

CODとは何か? ~水質汚濁の指標~

まず、CODそのものについて理解を深めましょう。CODは "Chemical Oxygen Demand" の略で、日本語では「化学的酸素要求量」と訳されます。水中の有機物や無機物を問わず、酸化剤によって酸化される物質の総量を、酸素の量に換算して表したものです。

CODの値が高いほど、水中に含まれる被酸化性物質が多く、水質汚濁が進んでいることを示します。河川、湖沼、海域などの環境水や、工場排水などの水質基準項目として採用されており、水処理プラントの設計や運転管理においても重要な指標となります。

CODcr(二クロム酸カリウム法)とは?

CODcrは、酸化剤として二クロム酸カリウム (K_2Cr_2O_7) を用いて測定する方法です。この方法は、強力な酸化力を持つ二クロム酸カリウムを使用するため、ほとんどの有機物を酸化分解することができます。

CODcrの特徴

  • 強力な酸化力: 難分解性の有機物も含め、広範囲の有機物を酸化できるため、より総量に近い有機物量を評価できます。
  • 高い再現性: 測定条件が比較的安定しており、再現性の高いデータが得られやすいとされています。
  • 国際的な標準法: 国際的にも広く採用されている測定方法の一つです。

CODcrの測定原理

試料に硫酸酸性条件下で過剰量の二クロム酸カリウムを加え、一定時間加熱します。このとき、水中の被酸化性物質が二クロム酸カリウムによって酸化されます。反応後、消費されずに残った二クロム酸カリウムの量を滴定などによって定量し、その差から被酸化性物質を酸化するのに消費された二クロム酸カリウムの量を求め、酸素量に換算してCODcr値を算出します。

CODmn(過マンガン酸カリウム法)とは?

一方、CODmnは、酸化剤として過マンガン酸カリウム (KMnO_4) を用いて測定する方法です。日本国内の環境基準や排水基準で広く採用されている方法であり、酸性法アルカリ性法があります。

CODmnの特徴

  • 日本国内で広く採用: 河川や湖沼などの環境基準項目として、また工場排水の規制項目として、日本では長年にわたり用いられています。
  • 測定操作の簡便性(相対的に): CODcrと比較して、使用する試薬の種類が少なく、操作がやや簡便であると言われることがあります。ただし、測定条件の管理は重要です。
  • 酸化力の限界: CODcrに比べると酸化力が弱く、一部の難分解性有機物は酸化されにくい場合があります。

CODmnの測定原理

CODmnは、試料に硫酸酸性(または水酸化ナトリウムでアルカリ性)条件下で過剰量の過マンガン酸カリウムを加え、一定時間加熱します。水中の被酸化性物質が過マンガン酸カリウムによって酸化されます。反応後、消費されずに残った過マンガン酸カリウムの量を滴定などによって定量し、その差から被酸化性物質を酸化するのに消費された過マンガン酸カリウムの量を求め、酸素量に換算してCODmn値を算出します。

なぜ日本ではCODmnが主流なのか? その歴史的背景と理由

ここで、なぜ日本国内の公定法としてCODmn(過マンガン酸カリウム法)が広く採用されているのか、その背景について解説します。国際的にはCODcr(二クロム酸カリウム法)の方が一般的であるにも関わらず、日本でCODmnが主流となったのにはいくつかの理由が考えられます。

  • 歴史的経緯とデータの継続性: 日本において、CODmnは水質汚濁防止法が制定された当初から、水質汚濁の状況を把握するための公定法として採用されてきました。長年にわたりこの方法で全国の河川や海域の水質データが蓄積されており、過去のデータとの比較や経年変化を追跡するためには、測定方法の継続性が重視されたという側面があります。
  • 測定の簡便性とコスト(導入当初の視点): CODmnは、CODcrと比較して、試験操作が比較的簡便であり、使用する試薬も安価で入手しやすかったという初期のメリットがありました。特に、多くの地点で多数の検体を測定する必要がある行政検査などにおいては、この簡便性が重視されたと考えられます。
  • 六価クロム使用への懸念: CODcrで使用する二クロム酸カリウムには、毒性が高い六価クロムが含まれています。環境意識の高まりとともに、測定試薬に含まれる有害物質の使用を極力避けたいという意向や、実験室からの廃液処理における環境負荷への配慮も、CODmnが選択されやすかった一因と考えられます。

これらの理由が複合的に作用し、日本ではCODmnが環境基準や排水基準における標準的な測定法として定着してきたと考えられます。ただし、近年ではより正確な有機物総量を把握する目的や、国際的な整合性を考慮して、CODcrの重要性も再認識されつつあります。

CODcrとCODmnの主な違いのまとめ

特徴CODcr (二クロム酸カリウム法)CODmn (過マンガン酸カリウム法)
酸化剤二クロム酸カリウム (K_2Cr_2O_7)過マンガン酸カリウム (KMnO_4)
酸化力強力CODcrに比べると弱い
測定対象ほとんどの有機物比較的分解されやすい有機物(一部の難分解性有機物は酸化されにくい)
主な用途国際的な標準法、より総量に近い有機物量の評価、産業排水の管理など日本国内の環境基準、排水基準
再現性高いCODcrに比べると条件に左右されやすい場合がある
環境負荷使用する試薬に六価クロムを含むため、廃液処理に注意が必要六価クロムは含まないが、マンガンを含むため廃液処理は必要

一般的に、同じ試料を測定した場合、CODcrの値はCODmnの値よりも高くなる傾向があります。これは、CODcrの方が酸化力が高く、より多くの種類の有機物を酸化できるためです。

どちらのCOD測定法を選択すべきか?

CODcrとCODmnのどちらの測定法を選択するかは、測定の目的や対象となる水の種類、適用される法規制などによって異なります。

  • 法令遵守: 日本国内の河川や海域の環境基準、あるいは工場排水の排水基準でCODが規制されている場合、多くはCODmnが指定されています。この場合は、指定された方法で測定する必要があります。
  • 水処理プロセスの評価: 水処理プラントの設計や運転管理において、より詳細に有機物量の挙動を把握したい場合や、難分解性物質の処理効率を評価したい場合には、CODcrが有効な場合があります。
  • 国際的な比較: 海外とのデータ比較や、国際的な基準に合わせた評価を行う場合には、CODcrが用いられることが一般的です。

まとめ

CODcrとCODmnは、どちらも水中の有機物汚濁を評価するための重要な指標ですが、その測定原理や特徴、そして得られる値の意味合いには違いがあります。日本でCODmnが主流である背景には、歴史的な経緯やデータの継続性、環境負荷への配慮など、様々な要因が絡み合っています。それぞれの方法の特性を正しく理解し、目的に応じて適切な測定法を選択することが、正確な水質評価と効果的な水処理、そして水環境保全に繋がります。

水処理に関するお悩みや、より詳細な水質分析、排水処理プロセスの改善などをご検討の際には、専門的な知識と経験を持つ業者にご相談されることをお勧めします。

専門業者が周りにいない時や、第三者の意見を聞きたいときは、工場のセカンドオピニオンであるウォーターデジタル社にぜひお問い合わせください。

water-admin